渋谷駅のキンカン広告、仕掛け人に聞いた企画の意図や想いとは

キンカンでお馴染みの株式会社金冠堂が実施した、渋谷駅の広告をご存じでしょうか?柱巻きを利用してキンカンの瓶を描いたクリエイティブは、TwitterなどのSNSを中心に大きな話題となりました。また、切実すぎるメッセージ「#若者に売れたい」は、企業の垣根を越えて多くのユーザーに拡散、盛り上がりを見せました。

今回、この広告の仕掛人である株式会社金冠堂と株式会社東急エージェンシーの皆様に、企画の意図や想い、ちょっとした裏話など話をうかがいました。

――今回、渋谷駅で広告を実施された経緯について教えてください。

2018年度から毎年、若年層向けの広告施策を金冠堂と東急エージェンシーで一緒に実施しています。

そもそもキンカンはテレビCM中心で広告展開していたのですが、効果を定点観測している中で、30代・40代に比べて若年層の認知度・理解度が相対的に低く出ていました。若年層の認知度の低さを払しょくすべく、今回の広告のような若者向けの広告展開を進めてきました。

――2018年から実施されているのですね。2019年のスタイリッシュなポスターは印象に残っています。

ありがとうございます。2018年は栗原ジャスティーンさんに出て頂いた「男の知らないSNS女子の生態」という動画広告で、2019年はスタイリッシュなポスターが印象的な「KINKAN SUMMER COLLECTION 2019」でした。 

男の知らないSNS女子の生態

2018年は、ありきたりな写真にうんざりしたSNS女子が、よりフォトジェニックな「本当のインスタ映え」を求め、山に場を移して写真を撮影するもので、普通の女子が繰り出すアクロバティックな動きへの驚きと、最後にキンカンを塗るという意外性のあるコンテンツとなっています。

KINKAN SUMMER COLLECTION 2019

2019年は「キンカンがあれば蚊にさされてもスタイリッシュに、ありのままの自分らしい装いに。」をテーマに、蚊をモチーフにしたコレクションロゴを使い、まるでファッションブランドのようなポスターと動画を公開しました。若年層を中心に反響がありましたね。

――一貫して若年層に対する広告施策を展開されているのですね。

そうですね。それに加えてキンカンの「イメージを変えたい」一面もあります。

調査結果によると、キンカンといえば「実家においてある」、「おじいちゃんおばあちゃんが持っている」、「見たことはあるけど使ったことはない」といった意見が多く、言葉を選ばずに言えば「古くさい」「自分向きではない」というのが若年層の印象でした。

なので、キンカンを「自分向けの商品である」であることを認知してもらいつつ、「前衛的だ」「新しい」といった印象を持ってもらうことを目的に、例年その年の風潮を鑑みつつ企画をしています。

――なるほど。今年は駅広告で実施をされていますが、渋谷駅を選んだ理由はやはり若者が多いといった理由でしょうか?

そうですね。少しでも若い方に広告を見てもらうこと、より多くの人に見てもらうことをポイントに渋谷を選定しています。

ただ、今回の企画で言えば、渋谷駅(半蔵門線)の地下にある柱巻き壁面のグラフィック、この2つがなければ今回の企画は成立しませんでした。その意味でも渋谷駅のあの場所でなければいけませんでした。「渋谷でなければいけない」訳ではなく、企画をしていく中であの場所で、今回の企画を成立させることに意味があったと考えています。

――今回の広告のフレーズ「#若者に売れたい」は本当に正直すぎて驚きました。この言葉を選んだ意図をお聞きしたいです。

昨今、ブランドメッセジはいくらでも盛れてしまう、盛れてしまうゆえに広告自体が信用されないという状況があると考えています。そんな中で、企業の根源的な部分、誰も触れて来なかった「売れたい」というメッセージをあえて前面に出して言ってしまおうというのが今回の企画のコアな部分です。

コピーやデザインに関して、もっとカッコよく作ることも、オシャレな感じで作る事も出来るのですが、それはあえてやらず、Twitterの投稿くらいの感覚で「まるで人が語っているような」本音っぽい語り口で表現することを意識しています。それゆえ、若年層からすると親近感のある内容になっていると思います。

本音っぽい語り口で表現されたコピー

いかにも広告っぽい、カッコいいフレーズで作ってしまうと、「あっ、やっぱり広告なんだ」とプロモーションに利用されている感じがどうしても出てきてしまいます。

今の若い方は特に、広告に利用されていることに物凄く感度が敏感なので、「上手くシェアさせようと思っている広告だな」と思ってしまうものは絶対にシェアしません。実際、話題となっている広告の多くが広告っぽくないものだったりします。その時の背景や若者の特徴は鑑みながら作るようにしていますね。

――なるほど。確かに広告っぽくないですし、シェアしたいと思わせるようなデザインですよね。

クリエイティブもそうですけど、今回の企画自体にすごく余白があったと思っています。ついSNSで語りたくなるような部分を残してあげることで、ユーザーが入り込む余地があったと捉えています。

実際、様々な企業様が「#若者に売れたい」で乗っかってきてくださったのもまさにそこです。どの企業様も若者に売れたい気持ちは持っているわけで、それを自分たちだけの言葉にする必要もないですし、色んな企業様を巻き込んだからこそムーブメントになったと考えています。

――少し話は変わりますが、渋谷駅の広告の前にキンカン公式Twitterで「キンカンネイル」などのアイデア投稿があったと思います。今回の施策に何か関係しているのですか?

はい、その通りです。

若者に売れるため、日々試行錯誤している活動自体をキンカン公式Twitterである「キンカン三姉妹の目線で語ってもらいつつ、プロモーションに背景の下地を作ることを意図としています。

キンカン三姉妹がアイデアを出し合う様子

今回の広告展開は一見すると駅広告を使ったOOHの企画のように見えますが、事前期からTwitterの方で仕掛けつつOOHを挟むことで、Twitter上で話題になるよう伏線をはっていきました。なので、OOHだけでなく、事前投稿を全て含めて全体の企画として捉えて頂けると嬉しいですね。

――今回の広告はかなりシンプルだった印象がありますが、クリエイティブへのこだわりについて教えてください。

キンカンの瓶の透け感など、いかにリアルに見えるようにするかに物凄くこだわって制作しています。

実物の瓶は、柱巻きのように一直線の円柱ではないので、そのままデザインしてしまうと平べったい感じになってしまうのですが、あたかも目の前にキンカンの瓶があるように調整しています。あと、柱巻きの上にライトが設置されているのですが、そのライトによる反射の映り込みなども計算していますね。

壁面ポスターについては、なるべくシンプルにしてメッセージの方を立たせることを意識しています。全体のディレクションとして広告っぽくない広告を掲げていたので、文字やコンテンツを詰め込まないデザインにしています。

――シンプルながら物凄くこだわって制作されているのですね。やはり、現地で何度も調整されたのですか?

そうですね。壁面、柱巻きともに何度も検証をしました。

円柱については、キンカンの瓶を再現するために円サイズ、高さなど分析しましたし、壁面の広告についても人の歩く速度から、グラフィックやコピーの配置調整、人の目線に合わせたクリエイティブの高さ調整など、シンプルに見える広告ですが計算しつくされた広告となっています。

コンテンツとコンテンツの間にある余白は、歩く人のスピードに合わせて設計された

細かいですが、柱巻きのデザインはラベルが後ろまできっちり繋がっているわけではなく、少しスキマが空いています。実物もそのようになっており、そのスキマからラベルの裏側が透けて見えるようになっています。本来であれば、柱巻き広告が透けて見えることは無いのですが、あたかも透けているかのような映り込みをクリエイティブで再現し、よりリアルになるよう設計しています。

スキマからラベルの文字が透けて見えるのが確認できる

 
――映り込みまで再現しているとは!今回の広告で、柱巻き全て同じ向きになっていましたが、向きをそろえた意図はあったりしますか?

キービジュアルで撮影した際に、全て同じ向きを向いていた方が美しいからですね。

実際に渋谷駅を訪れられない人もたくさんいる中で、今回の企画の意図が伝わってインパクトのある内容にするにはどうすればよいかを考えたときに、全て共通で同じ向きにしてしまった方が美しく収まる、企画の意図もしっかり伝えられると考えこのようにしました。

全て同じ向きで配置された柱巻き広告、まさに圧巻

今回の広告では、特に効果・効能の説明を盛り込んでいなかったにも関わらず、柱巻きのインパクトが大きいこともあり「肩こりにも効くんだ!」といった効果・効能に関する発信が多くありました。

これは正直考えていなかったのですが、柱巻き広告こそがキンカンの特徴を全て言い得ているものだったように思っています。

――渋谷駅の広告実施後、何か反響などはありましたか?

Twitterを始めとするSNSを確認すると、「久々にキンカンを見た」「買ってみようかな」といった声や、「え、キンカンって肩こり腰痛にも効くの?」といった、今まで見たことが無かったようなお声などを多数いただいています。

実際のところ、キンカンはやはり薬ですので、症状が無い方が広告を見て買うかと言われるとすぐに購買には繋がりません。なので3年前から、売り込むというよりはとにかく若者に「刺さる」「記憶に残る」「知ってもらう」点をゴールとして実施しています。

こういった広告をする前まではテレビCMを中心に実施していたのですが、どうしてもお客様の声が聞こえにくい部分を感じていました。今回の施策のようにSNSWebメディア上で取り上げられたり、共感してもらったりしていること全てが財産だと思っています。

――毎年、若年層向けに面白い広告の取り組みをされていますが、今後の展開について教えてください。

若年層向けの広告については、毎年キンカンのシーズン前(初夏)に行う形で進めています。今期しっかり結果も出ましたので、恐らく来期も実施するのかなとは思っています。

あとは、これからどのように生活環境が変わっていくのかもポイントになってきますね。実際、我々も今までは対面で打ち合わせをしていたのですが、去年から対面での打ち合わせはほとんど行っておらず、今回の企画に関しても、ほぼオンラインでの打ち合わせで詰めていきました。

若年層の思考や世の中の常流が目まぐるしく変わってきている中で、企画を事前に練っておいても結果が出ない気がしています。できることならギリギリまで引っ張ったうえで世の中の流れをきちんとつかんだ上で、企画を組むことで今回のように広がりのある企画が実施できる、そう思っています。

つまりは、来年も乞うご期待ということですね。

広告仕掛人の皆さん

株式会社金冠堂 広告宣伝課
錦野様、横尾様、鈴木様 

株式会社東急エージェンシー
興津様、月足様、奥村様、倉持様、齋木様


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