大学ネーミングライツ・インタビュー①鹿児島大学


国立大学で導入が進む大学施設内のネーミングライツ(命名権)。国立大学法人鹿児島大学は、企業からの提案を採用する「提案募集型」のネーミングライツ制度を導入し、数多くの企業と契約を締結しています。今回、鹿児島大学施設部企画課長の大久保様と施設部企画課総務係長の宮本様にネーミングライツ導入の背景や特徴についてお伺いしました。

鹿児島大学のあらゆる施設が広告スペースとして提供可能な「提案募集型」を採用

――鹿児島大学の特色を教えてください。

鹿児島大学の起源は、江戸時代後期の1773年に薩摩藩が設立した「造士館」までさかのぼります。その後第七高等学校造士館をはじめ各種専門高等学校との統合を経て、1949年に新制国立鹿児島大学として発足しました。現在は主要な3つのキャンパスに9つの学部と9つの大学院研究科を置き、1万数百名の学生を擁する南九州地区最大の総合国立大学となっています。学部入学者全体の半分強が鹿児島県外の出身者です。

郡元キャンパス
<学部>法文学部、教育学部、理学部、工学部、農学部、共同獣医学部
<研究科>人文社会科学研究科、教育学研究科、理工学研究科、農林水産学研究科、臨床心理学研究科、共同獣医学研究科、連合農学研究科

桜ヶ丘キャンパス
<学部>医学部、歯学部
<研究科>保健学研究科、医歯学総合研究科

下荒田キャンパス
<学部>水産学部

――どのような施設で命名権を募集されていますか?

鹿児島大学の命名権は大きく「財産特定型」と「提案募集型」にわかれます。

財産特定型:鹿児島大学が、大学内の対象施設を特定し、ネーミングライツ料や契約期間等を提示

提案募集型:企業から、鹿児島大学に建物屋内外施設(教室の入口等)に対するネーミングライツを提案

財産特定型は、「○○ドーム」のように、施設に愛称を付与し、本学は組織内部における文書の記載等において正式名称を使用する場合を除き、当該愛称を使用します。勿論施設へのプレート掲示も可能です。
鹿児島大学HP上の募集要項に、募集している施設と料金の目安額を掲載してありますが、目安額はあくまで本学の希望額であり、その額を下回る応募も可能です。

鹿児島大学・郡元キャンパス:ネーミングライツ・パートナー公募対象施設

提案募集型は、財産特定型で募集しているものと既に他企業に提供しているものを除いた全ての本学財産が対象です。提案募集型に関しては、企業の参考となるように広告パターンを提示し、料金を明示しています。例えば、外壁面等の屋外にA0判のパネルを掲示する場合は、年間36 万円(3万円/月)(税抜)、教室の入り口等の屋内にA4判のパネルを掲示する場合は、年間 12 万円(1万円/月)(税抜)となります。

提案募集型のパネル広告例

延べ28社が採用。地元メディアや先生のネットワークを通じて企業に告知

――なぜ鹿児島大学はネーミングライツの販売を始めたのでしょうか?

平成16年度の国立大学法人化以降、全国の国立大学で政府から配分される運営費交付金の削減が進んでいることが背景にあります。平成27年には文部科学省が財源の多元化等を求める「国立大学経営力戦略」を策定しています。これに基づき、鹿児島大学では増収策の一環として平成29年度にネーミングライツ制度を導入しました。

――他の大学命名権を調べても提案募集型を採用しているところは少なく感じます。

平成28年度にネーミングライツについて調査し始めた段階では、財産特定型の形式で他大学が数校実施していましたが、ヒアリングしたところ応募すら来ていないという状況でした。ただ、寄付と絡めて、教室にネーミングライツを設定した事例を1校だけ見つけることができたので、鹿児島大学も年間契約額が数百万円にもなるような施設だけでなく、講義室など比較的小規模な財産で年間契約額数十万円程度の選択肢を用意すれば、寄付や応援もかねて応募がきてくれるのではないかと想定して導入しました。
その後たくさんのネーミングライツ・パートナー様のご理解を得て令和3年7月末までに協定更新分も含め、延べ28件の協定を締結させていただき、8月にも1件締結予定です。

水産学部の乗船実習で使用する鹿児島丸も提案募集型の対象

――延べ28社がネーミングライツを実施しているというのは、非常に多い印象です。

営業しています(笑)。ホームページでの募集案内はもちろんですが、役員を通じて県内の大手企業に声を掛けたり、先生方を通じて卒業生の就職先の企業に告知したり、大学として取引のある企業に案内したりしています。その他、大学内で実施される、就職のための企業説明会の際にも企業に案内させていただくなど、地道な努力が徐々に実を結んでいると考えています。
また、平成29年のネーミングライツ導入の際には、地元のテレビ局で学長が記者発表しています。企業が自分で鹿児島大学のHPを見て募集というのはまだまだ少ないです。大学でネーミングライツができるという認識がまだまだ浸透していないというのも影響していると思います。

企業がネーミングライツを行う目的は、リクルーティングがほとんど、アクセスが伸びたという報告も

――理工系の企業の導入が多いように感じますが、実際にはどうですか?

工学部の先生が非常に積極的に動いてくださっているのも理由のひとつですが、理系人材が不足しているので、リクルート目的で積極的に導入している企業が多いというのが大きな理由です。特に海洋土木工学科のように、専門に特化している学科などが人気です。求人費用と考えると、12万円/年~という価格は金額的に受け入れやすいのではないかと考えています。

海洋土木工学棟のパネル掲示例

提案募集型で掲示できるパネルは、「鹿児島大学を応援しています。」という文言を入れていただく以外は、企業の宣伝や求人などある程度自由に表現できます。頻繁に通う教室前のパネルを通じて学生への認知度を上げることができますし、QRコードの掲載も可能なので、学生がパネルに掲載してある企業やサービスを気になった場合は、スマホで簡単にリクルート案内など見ることができます。学生があまり知らないと思われる九州のBtoBの企業様からは、パネルを掲示してアクセス数が非常に増えたという声をいただきました。

――導入された企業は、鹿児島にゆかりがある企業が多いですか?

半分ぐらいです。地元企業も増えてきている印象です。

――コロナで学生がキャンパスに来ることができず、オンライン授業が増えています。企業の応募への影響はありましたか?

逆に応募はここ1年ぐらいで増えています。歯学部・工学部などの理系は実験や実習でどうしても大学に来なければならないので、影響がなかったわけではないとは思いますが、それほどでもありませんでした。

より企業に応募しやすい仕組みに改良を重ねていく

――応募のプロセスについて教えてください。

現状では、財産特定型も提案募集型も申込みの後、他に応募者がいないか1か月間公募し、申込みがなかった場合には、大学内でネーミングライツの委員会を開催・審査させていただき、協定の締結手続きに入ります。委員会での審査は、企業の審査だけでなく、ネーミングライツでしたら命名する予定の愛称、パネルでしたら掲示する予定のデザインも提出してもらい同時に審査を行います。

募集プロセス※2021年8月現在

ただ、1か月の公募期間は企業にとってメリットがないので、その手続きをなくす方向で動いています。すべてのプロセスが完了するまでに現状だと2か月程度かかりますが、公募期間をなくすことで大きく短縮ができ、企業にとっても応募しやすくなるのではと考えています。

現在、協定締結が済んでいるのはすべて提案募集型です。財産特定型については、金額を含め、まだ修正の必要があるのかなと感じており、いろいろと検討しています。HP上の募集要項に掲載しているのはあくまで目安の希望額ですし、原則3年での契約になりますが、応募企業の要望に応じて柔軟に対応します。

――今後どのような企業に応募・利用してもらいたいですか

これまでと同様リクルートを目的とした企業様や鹿児島大学への教育研究環境充実への協力・支援を目的とした企業様はもちろん、それぞれの目的に合わせてネーミングライツに応募いただければと思います。就職も含めて何らかの形で鹿児島大学に携わっている企業様のほうが適しているかなと考えております。


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