銚子電鉄がアイデアを生み出し続ける秘訣 | 竹本社長インタビュー


銚子電鉄は千葉県の銚子駅と外川駅を繋ぐ、総延長6.4kmの鉄道路線です。1923年の開業以来、地域住民や観光客の足として親しまれてきました。しかし、採算性の悪化に前社長の横領、東日本大震災、コロナ禍と幾度となく危機にさらされてきた同社。そのたびに、「ぬれ煎餅」や「まずい棒」をはじめとするアイデアで危機を乗り越えてきました。

菓子製造・販売、駅名ネーミングライツ販売、アパレル、電柱広告、自作の映画…とユニークなアイデアを次々と生み出す銚子電鉄社長の竹本勝紀様にアイデアを生み出す秘訣について話を聞きました。

幾度となく危機を乗り越えてきた銚子電鉄

銚子電鉄の収支は決してよい状況ではありません。ぬれ煎餅や駅名のネーミングライツ(命名権)販売によって利益を底上げてもなお、数千万円の赤字が出ている…そんな状況です。ただ、ここ数年は1,000万円ほどの赤字が出ていたものの、収益でカバーできている状態でした。

しかしコロナが状況を一変、ほぼ倒産状態まで陥りました。2020年の第1四半期(4~6月)には5,000万近い赤字となり厳しい状況になりましたし、1日の売り上げが4,480円なんて日もありましたね。その前も東日本大震災の風評被害で観光客も取り込めず、1億円の赤字が3年続きました。それまでは、ぬれ煎餅で利益も出ていたのですが、震災でため込んだ利益をすべて吐き出すことになり、2012年末には借金2億円、預金残高が50万円になったタイミングもありました。

また、鉄道運営では維持費が重くのしかかります。銚子電鉄は創業から98年と昔からある路線ということもあって、鉄道インフラ整備への投資が欠かせません。例えば、通常、道床(どうしょう)と呼ばれる、砕石を盛った部分に線路を敷くのですが、銚子電鉄の場合、道床の整備が十分とは言えません。走行安定性や乗り心地改善のため毎年少しずつ道床交換を進めていますが、コストが重荷になっています。

あと、電車車両には車で言う車検が義務付けられていますが、検査費用は1編成1,500万かかります。これが3年に1回やってきます。銚子電鉄では3編成車両を保有しているので、それぞれコストが重くのしかかります。

銚子電鉄の取り組みがメディアに取り上げられ、観光客が増えてくるとともに「今年こそは黒字か!」と思うと、今回のコロナのような外部要因によって、結果赤字になる…そんな繰り返しです。

何もしないことが一番のリスク。とにかくアイデアを出し続ける

銚子電鉄はわずか6.4㎞と短く、あっという間に終点についてしまう路線です。今話題のレストラン電車をやったとしても前菜を出して終わってしまう…そんな距離です。かといって、景色が良いわけでもなく、絶景ポイントがあるわけでもありません。

待っていてもお客さんが来ないのであれば、面白い企画を自ら打ち出して新たなお客様を迎え入れるしかないわけです。何もしないことが一番のリスクですので、とにかくアイデアを出しながら走り続けています。思いついたら商品化して、ひたすらプレスリリースを書き、SNSやYouTubeなどのソーシャルメディアもフル活用して販売に邁進する。このスタンスを大事にしています。

「どうしたらそんなに面白いアイデアが思いつくのですか?」とよく聞かれるのですが、特にコツがあるわけでもなく、とにかく考えて出し続けています。考えることをやめないことがコツかもしれません。もちろんですが、ボツ案もたくさんありますよ。

商品のキャッチコピーを考える際、ギャグを基本にしつつも「銚子電鉄が大変な状況にあること」が伝わるよう工夫を重ねています。私は、それを“自虐”ならぬ“自ギャグ”ネタと呼んでいます。“自虐”だと他人は傷つきませんが、自分たちが滅入っちゃいますよね。でも“自ギャグ”でギャグを交えて笑い飛ばしてしまえば、誰も傷つかなくて済みます。もちろん、スベることもありますが(笑)。“自ギャグ”ネタを繰り出すことで、先ずクスッと笑っていただき、「でも大変そうだから、買ってあげよう」と思ってもらえたらありがたい。そんな気持ちで社員と共にアイデア出しに励んでいます。経営状況はピンチの連続ですが、苦しい時こそ、笑って乗り越える気概が大切ではないかと思っています。

まずい棒を例にとると、岩下の新生姜とコラボした新商品では、激辛と書いて「激しく辛(つら)いまずい棒 岩下の新生姜味」として経営状況が“辛い”状態にある事を表現しました。コロナ禍で出したチーズ味では「マズさ倍増!さらにマズくなりました…経営状況が(涙)」とフレーズを付けてみたり、老朽化の進んだ車両を見て思わず「わ、、錆・・・!」と声を上げたことをきっかけに、“わさび”味を発売したり…。最近だと、10枚入り931円(キューサイ)の濡れ煎餅プレミアムを発売したりもしましたね。

まずい棒岩下の新生姜味


食べ物以外でも、アパレルに進出したときは、「経営状態に穴が開いている」ことをコンセプトにした、“
心まであったかい”銚電の『穴あきマフラー』を売り出して完売したりもしました。穴が開いていたら寒いはずなんですが…(笑)

銚子電鉄が発売したマフラー。左下にハート型の穴が開いている。


色々試行錯誤しながら行きついた先が、クスッと笑ってつい
応援したいと思っていただけるような“自ギャグ”を織り交ぜる今のスタイルです。この自ギャグネタで結果的にメディアに取り上げられる機会も増え、銚子電鉄の利用者増加に繋がりました。幾度となく襲ってくるピンチをアイデアで乗り越えてきましたね。

「電車屋なのに自転車操業」全ては鉄道を走らせるため

今でこそ、多くのメディアに取り上げて頂けるようになった銚子電鉄ですが、鉄道以外(副業)で収益を上げようとする取り組みは、45年前のたい焼き販売に遡ります。当時、銚子にたい焼き屋が無かったことと、「およげ!たいやきくん」がヒットしていたことから観音駅にたい焼き屋をオープン、大行列ができる人気となりました。

今でこそ大手鉄道会社も駅ナカ事業や観光業など、本業(鉄道)以外の取り組みで売り上げを伸ばしていますが、銚子電鉄の副業の取り組みがある意味その嚆矢といえるかも知れません。参考にしたいと大手鉄道会社の営業研修チームが来られたこともありました。

たい焼き屋オープンから20年後、次のヒットとなったのがぬれ煎餅でした。銚子名物であるヤマサさんの醤油を使って、銚子電鉄オリジナルのぬれ煎餅として販売しはじめたのがきっかけです。発売直後、メディアに特集が組まれるなど話題になり、一気に2億円売り上げました。その後、銚子電鉄とぬれ煎餅は切っても切れない関係となっていきます。ちなみに、発売を開始した平成10年(1998年)当時、鉄道収入が約1.1億円だったので、ぬれ煎餅が売れ始めたこのころから当社は煎餅屋です(笑)

私はよく、今の銚子電鉄を「電車屋なのに自転車操業」と言っています。前輪(鉄道事業)がパンクしかかっているところ、後輪(ぬれ煎餅やその他副業など)で何とかフラフラと前に進んでいるような状態です。実は、先日の株主総会では「収益改善が見込めない鉄道事業をやめたらどうだ」といった声もありました。ただ、私はどっちでも抜けてしまったら成り立たなくなってしまうと考えています。

沿線住民が減っているとはいえ、電車で学校へ通う小学生もいますし、交通手段として利用する高齢者の方も多くいらっしゃいます。2年前の話ですが、運転免許証を返納した高齢のご夫婦が銚子電鉄を訪れ、「警察署に免許を返しに行ったときに、返納した高齢者は通常料金の半額で乗れることを聞いた。これからお世話になります」とわざわざご挨拶に来ていただいたことがありました。ローカル線ならではの光景だと思いますが、やはり地域住民の足として走らせ続ける必要があると認識しています。

2,400円盗まれて全国ニュースに。多くの人に支えられてきた銚子電鉄

全国の鉄道ファンによる支援、デジタル世界の向こう側にあるアナログの“あたたかい”気持ちを持った方々に救われてきたのが今の銚子電鉄であり、日本人の善意に救われた会社です。ある有名タレントさんが番組内で「銚子電鉄は赤字だから応援したくなる。黒字になったらつまらない」などと話されていましたが、いつもギリギリの「崖っぷち経営」を続けながらも、皆様の応援を背に受けつつ黒字化に向けて力を尽くしているところです。

15年前(2006年)にぬれ煎餅のブームが起きたときも、当時の経理課長が出した悲痛なお願い文「ぬれ煎餅買ってください。電車修理代稼がなくちゃ、いけないんです」これがインターネットを中心に広がってピンチを乗り越えたことがありました。

当時のホームページに掲載された、ぬれ煎餅購入を呼びかける「緊急報告」


「“ぬれ”煎餅って何?」という疑問と「電車修理代ってどういうこと…?」という違和感が結果的に大きく広がる要因になりました。オンラインショップには2週間足らずで1万件を超える注文が殺到し、その売上で危機を乗り越えることができました。

最近だと、本銚子駅の時計が盗まれたことがあったのですが、「時計返してください」とTwitterでつぶやいた後に時計の寄付がたくさん集まったことがありました。

犬吠駅の売上金2,400円が盗まれたときは、「とても悲しいです」ツイートが全国ニュースになりました。2,400円盗まれて全国ニュースになるとは思ってもみませんでしたが、この一件でたくさんの寄付を頂き、オンラインショップの売り上げにも繋がり、本当に助かりました。

このように多くの方にご支援、支えて頂きながら今の銚子電鉄があります。

ミルフィーユのように積み重ねながらカタチ作っていく

アイデアを出して新しいことに挑み続けることも大事ですが、既に話題になったコンテンツでもちょっとした改善を積み重ねることが大事です。例えば、毎年やっているお化け電車についても「去年の方が面白かった」と言われないよう、毎年怖さを追求していますし、ロングセラーのぬれ煎餅も常に味の改善を行っています。

この改善のことをミルフィーユのように、薄いパイ生地(改善)を積み重ねながらカタチあるものを作っていく様子になぞらえて、“ミルフィーユ改革”と呼んでいます。どの企画・商品も作りっぱなしで終わるのではなく、お客さんにまた来てもらえるよう改善は欠かせません。ちなみに、ミルフィーユはフランス語でミル(千)とフィーユ(葉)、つまり千枚の葉(千葉県)にならって名付けています。

基本的に、鉄道を存続させて地域に貢献することを根底に事業をしていますが、“真剣にふざける”ことをモットーにしています。確かに経営状況は苦しいですが、苦虫を嚙み潰して歯を食いしばっている姿は見せたくないと思っています。

銚子電鉄は地域の広告であり、情報発信基地とあると自負しております。「銚子電鉄が面白い企画をやっている」と興味を持ってもらえるような、“日本一のエンタメ鉄道”を目指し、これからも走り続けていきます。

銚子電気鉄道株式会社  代表取締役社長 
竹本 勝紀 様

1962(昭和37)年。千葉県木更津市生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。千葉県内の税理士事務所に勤務の後、平成21年に竹本税務会計事務所を開設。税理士として約500社に上るクライアント企業の税務申告のほか経営指導を行う。平成17年より銚子電気鉄道株式会社の顧問税理士となり、同20年社外取締役に就任、同24年12月代表取締役に就任。 以来、約20名の社員と共に経営再建に向けて奔走を続けている。また、千葉科学大学非常勤講師として財政学、マーケティング論を担当している。

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